巨舌の鑑別
巨舌(macroglossia)
定義:安静時の舌が歯、もしくは歯槽堤を超えて出ている状態
分類:
true macroglossia:舌に組織学的変化あり
・primary macroglossia:舌自体に問題があり、正常構造が肥大や過形成で大きくなる
・secondary macroglossia:異常構造物が沈着する
relative(pseudo-) macroglossia:舌は正常だが、下顎の形成異常、舌の機能異常
成人では、アミロイドーシス(上記のsecondaryに当たる)、小児ではリンパ管腫が多い
アミロイドーシスによる巨舌
DOCTER’S MAGAZINEで紹介されていたのは
舌対称性脂肪腫症(symmetrical lipomatosis of the tongue: SLT)
舌の良性腫瘍の1つで、これまで世界で50例程度が報告
地中海周辺の国では、30~60歳前後の大量飲酒者、
アジアでは飲酒歴のない60歳代以降で、大量飲酒歴がない例が多いとされる
参考文献
Macroglossia in Light-Chain Amyloidosis N Engl J Med 2018; 378:2321
Symmetric Lipomatosis of the Tongue N Engl J Med 2013; 369: e5
Dr.井村のクリニカルパールズ DOCTER’S MAGAZINE 2019年1月号
ミオスタチン(myostatin)とは
ミオスタチン(myostatin)は、TGF-βスーパーファミリーに属する26kDaの糖蛋白であり、主に骨格筋で合成され、骨格筋の増殖を抑制する。
myostatin遺伝子を欠失した牛は、「Belgian Blue Cattle」と呼ばれ、普通の牛の2~3倍の量の筋肉を持つ牛として、ヨーロッパでは以前から知られていた。
また、ヒトにおいても、生まれつき筋肉が異常に発達した小児が報告されている。
myostatin発現レベルの低下は筋肉量の増加と体脂肪の減少、発現量の上昇は筋肉量の減少・消耗をもたらす。
有酸素運動によってmyostatin濃度は低下する。
運動不足によるインスリン抵抗性にも関与している。
肝硬変患者においてmyostatin濃度は血中NH3と正の相関、BCAA濃度と負の相関を示す。
筋ジストロフィーなどへの治療応用に関して研究されている。
(参考文献)
Myostatin Mutation Associated with Gross Muscle Hypertrophy in a Child Markus Schuelke et al. N Engl J Med 2004; 350: 2682-2688
サルコペニアの科学と臨床 4)肝疾患とサルコペニア 西口修平ら 日内会誌 2018; 107: 1713-1717
大脳白質病変とは
大脳白質病変は、虚血による信号変化で、典型的な像としてはMRI T1強調像で等~軽度低信号、T2、FLAIRで高信号域を呈する。
特にハイリスクとされる変化
・PVH: periventricular hyperintensity(脳室周囲高信号域)
・DSWMH: deep and subcortical white matter hyperintensity(深部皮質下白質病変)
危険因子
・高血圧
・メタボリック症候群
・慢性腎臓病
・血中総ホモシステイン
・喫煙
白質病変を認めた場合
・危険因子(特に高血圧)に対する積極的な治療介入を検討する。
・スタチンが白質病変の進行を抑制する可能性が示唆されている。
参考文献
The clinical importance of white matter hyperintensities on brain magnetic resonance imaging: systematic review and meta-analysis. Debette S, Markus HS BMJ 2010; 341: c3666.
内科的側面からの脳卒中の克服 寺山靖夫 日内会誌 2018; 107: 1881-1891.
Effects of statins on the progression of cerebral white matter lesion: Post hoc analysis of the ROCAS (Regression of Cerebral Artery Stenosis) study. Mok VC, Lam WW et al. J Neurol. 2009; 256: 750-7.
E型肝炎の肝外合併症 Hepatitis E virus (Review) : Infection beyond the liver? J Hepatology 2017; 66: 1082-1095
Introduction
E型肝炎ウイルス(HEV)
・世界では毎年約300万人の感染、7万人が死亡
・genotypeは1~4
・時々急性肝不全を起こす(特に、妊婦におけるgenotype1感染)
・欧米ではgenotype3による感染が多く、多くは豚肉の摂取を介して感染
・血液製剤による感染、水系感染もある。
・慢性化を起こすのはgenotype3と4のみ
肝外合併症
急性・慢性肝炎の経過中または罹患後に起こる
“association is not causation” HEV感染との因果関係ははっきりしていない
病理学的なメカニズムは不明だが、HEVそのものによる障害と、免疫交叉反応を介した障害が考えられている。
頻度
5.5%
・ある報告では、2004~2009年にイギリス、フランスで起こったgenotype3による流行の際、7/126例において何らかの神経障害の合併症を認めた。
これらの一部では、脳脊髄液からHEV RNAが検出されている。
また、神経障害が改善しなかったり、後遺症が残った例もある。
(Emerg Infect Dis 2011; 17: 173-179)
・先進国、発展途上国双方からHEVに関連したGuillan-Barre症候群の報告があるこた、とから、genotypeは関連がないことが示唆されている。
HEVに伴う肝外合併症
<神経障害>
GBS
日本からの報告では、血清HEV-IgM陽性率が、GBSまたはMiller Fisher症候群の患者では4.8%(3/63)であったが、コントロール群の60例は0%であった
(Neurol Sci 2016; 37: 1849-1851)。
HEVに関連したGBSでは、抗ガングリオシド抗体が陰性との報告がある
neuralgic amyotrophy(NA)
Parsonage-Turner syndromeまたはbrachial neuritis(腕神経叢炎)とも呼ばれる。
23%では腕神経叢以外の神経領域の症状あり。
原因ははっきりしないが、GBSと共通の病因があると推測される。
NAでは、肝酵素上昇が25%の例でみられる。
37例のHEV関連NAでは、うち28例(76%)が両側性の腕神経叢炎だった。
報告例はgenotype3
GBSとNAは数十例のHEVに関連した報告があるが、その他の神経障害は多くて数例であり、関連性ははっきりしない。
精神症状との関連の報告もあり。
<血液学的異常>
血小板減少、MGUS、G6PD (glucose 6-phosphate dehydrogenase) deficiencyに関連した溶血性貧血、再生不良性貧血など
<急性膵炎>
A、B、C型肝炎との関連はよく知られているが、劇症肝炎に伴うことが多い。
50例を超える南アジアからのHEV感染と急性膵炎の報告がある。
<腎障害>
報告がある腎疾患は、膜性増殖性糸球体腎炎、IgA腎症、膜性腎症、nephroangiosclerosis。
最近20年間で透析患者におけるHEV抗体陽性率の上昇が報告されている。
HEVによる慢性腎炎が末期腎不全を引き起こし、透析に至っている例が存在する可能性がある。
クリオグロブリン血症(cryoglobulinemia)
これまで10例が報告され、全てgenotype3。9例は感染中、1例はウイルス排除後の発症。
<その他、稀な肝外合併症>(HEVとの関連は未確立)
・甲状腺炎
・心筋炎
・筋炎
・Henoch-Schonlein紫斑病
肝外合併症を起こしたE型肝炎の治療
・リバビリン(ribavirin)を用いた治療による自然経過の改善が報告されている
・ステロイド併用の有用性も報告されており、特にHEV排除後の免疫反応による肝外合併症例においてはメリットが期待される