とある内科医の医学勉強帳

感染症医、総合内科医の忘備録

(論文)C.difficile感染症 (Review Article) Clostridium difficile Infection. N Engl J Med 2015; 372: 1539-48

 

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・米国では2011年の1年間で453000件のC.difficile感染症(CDI)が発生し、29000名が死亡。これらのうち1/4が市中発症と考えられる。

 

Pathogenesis and Epidemiology

・C.difficileは大腸に定着し、2つのトキシンを産生(TcdA、TcdB)、感受性のある個体に腸炎を起こす。

・通常は腸管のmicrobiotaにより、菌の定着に抵抗性であるが、抗菌薬使用によりこの抵抗性が低下することにC.difficileの定着が起こる。定着した例皆が発症するわけではない。

・幼児の多くがC.difficileを保菌しているが無症状。おそらく、CDトキシンが結合する受容体が幼児の腸管には発現していないため。この保菌により免疫反応が起こり、ヒトはC.difficileのトキシンに対するIgG抗体を保有するようになる。

・CDトキシンはRho GTPasesを不活性化により、大腸細胞の壊死、腸管バリア機能喪失、好中球性の腸炎を起こす。

アメリカではBI/NAP1/027という強毒株が問題。高いキノロン耐性率、効率的な芽胞形成、大量の毒素産生などにより一般の株より高い死亡率。

・抗菌薬を投与された入院患者で、抗トキシン-IgGの抗体価が高い例は、C.difficileが定着しても、無症候性保菌者となることがある(N Engl J Med 2000; 342: 390-7)。

菌自体はヒトに非侵襲的であり、腸管外の感染症は非常に稀。

・入院患者におけるCDI発生率は上昇傾向、近年のデータでは

・15 cases per 1000 hospital discharge

・20 cases per 100,000 person-years in the community

 

 

Risk Factors

・最も重要な因子は抗菌薬使用。ほぼ全ての抗菌薬がCDIと関連するが、多いのはABPC、AMPC、セファロスポリン、CLDM、キノロン

・年齢が上がるに従い、CDIのリスクと重症度も上がる。

CDIの多くは病院内発症であるが、近年市中発症のCDIが劇的に増加しており全体の約1/3を占めている。

・市中発症のCDIは、院内発症例に比べ若年者に多く、既知のCDIのリスク因子が明らかでない例が多い。死亡率も低いが、40%で入院を要し、再発率も院内発症例と変わりない。

・酸分泌抑制治療がCDIリスクとの報告があるが、CDの芽胞は酸に対しても安定であり、胃酸のpHに左右されないと思われる。CDI増加は酸分泌抑制そのものによるものではなく、交絡因子によるものとの報告も複数あり。

・その他のリスク因子

加齢、IBD、臓器移植、化学療法、CKD、免疫不全、幼児保菌者やCDI発症者との接触

・感染に関連した死亡率は5%、その他全ての死亡率は15-20%。

・重症CDIWBC≧15000/μL、低アルブミン血症、AKIなどで判断され、緊急結腸切除や死亡との関連あり。

 

 

Diagnosis

酵素免疫法によるトキシンの同定か、遺伝子検査により診断されることが多い。

・C.difficileの直接培養は、嫌気培養が必要であり一般的ではない。

・遺伝子検査は、トキシン検査よりも感度・特異度に優れるが、臨床的意義が不明な少量の毒素産生C.difficileを検出してしまう恐れもある。

・遺伝子検査でトキシン産生株を検出しても、便中には遊離トキシンがない例は臨床予後に影響しないとされる。

・将来的には、高感度のトキシン定量検査を用いた診断アルゴリズムが期待される。

・遺伝子検査の陰性適中率(negative predictive value)は、平均的なリスクがある集団では95%以上となるため、遺伝子検査陰性の場合は(下痢の原因として)他を評価する必要がある。

・そもそも入院患者ではC.difficileが定着することがあるため、下痢がない患者での便検査をするべきではない。同様にCDI治療後の除菌確認のための便検査も意味がない。症状改善後も数週から数ヶ月にわたり検査では陽性となることがある。

・治療後も下痢が続く場合、CDI再燃か、感染後の過敏性腸症候群か炎症性腸疾患かの鑑別に便検査が有用となる可能性がある。

 

Prevention

・現在有効なワクチンはなく、予防の手段は、感染管理、抗菌薬適正使用、プロバイオティクスの3つ。

・抗菌薬使用を減らすことでCDIが減る。

・C.difficileは医療機関内に普遍的に存在し、芽胞は、医療従事者の手、聴診器、ベッド、電話、浴室、ベッドサイドなどあらゆるところから検出される。

・芽胞はアルコール消毒では減らず、石鹸と流水を用いた手洗いにより減る。

CDIの患者は個室隔離とし、医療従事者は手袋、ガウンを身に着け、石鹸と流水で手洗いし、患者退室後は部屋を除菌する。

・プロバイオティクスは安全で簡便な戦略。有用性については否定するものと肯定するものの報告が混在しており、はっきりしておらず、ルーチンの使用については推奨されない。

 

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Treatent of Acute Infection

・MNZとVCMがこれまでの治療の中心であったが、BI/NAP1/027株にはMNZの成績が劣ること、軽症・中等症・重症のいずれもMNZよりVCMの治療効果が優れるとの報告、MNZによる副作用の問題、VCMの後発品登場によるコスト低下などから、VCMが治療の主流となっている。

・2011年にFDAにより承認されたフィダキソマイシン(Fidaxomicin:FDX)は、大環状、殺菌性、特定の嫌気性グラム陽性球菌に活性あり。

・Phase3試験ではFDXの効果はVCMと同等(約90%)、再発率はVCMより低い(15% vs 25%)との結果。BI/NAP1/027株(約38%)における再発率低下はFDXでも認めなかった。FDXはコスト高が問題。

 

Treatment of Recurrent Infection

・再発リスク:初回後は20%、数度の再発後の再発リスクは60%にも及ぶ。

・再発の主な原因は、C.difficileへの再暴露、芽胞の再活性化であり、腸管常在細菌叢によるバリア機能が損なわれ、感染への免疫反応が障害された例で起こる。

・治療:初回再発の50%ではMNZ、VCMの10-14日間の再経口投与で改善する。

・2回目以降の再燃:難治。VCMの漸減投与や間欠投与、FDXにより治療。

・抗菌薬耐性による問題より、宿主の腸管の状態やトキシンに対する免疫反応の問題の方が大きい。FDXが再発例の治療に有用である可能性がある。

・中毒性巨大結腸、腹膜炎、呼吸不全、血行動態の不安定化などを伴った重症例に対しては、大腸切除や回腸瘻増設について外科コンサルト。

・FMT:facal microbial transplantation 糞便移植

元々ヒトの腸管常在菌叢は、外来からの病原細菌の定着を防ぐ働きがある。しかし、経口的に抗菌薬を投与されると、腸管常在菌叢の多様性が急速に損なわれ、その状態は数ヶ月間にわたり続く。

・C.difficileを腸管から排除するのに最も最良な方法は、抗菌薬を中止し、腸管常在菌叢を自然に回復させること。しかし、回復にはおよそ12週間またはそれ以上かかり、その間に再発する可能性あり。

・FMTはVCMによる治療と比べ優位に高い治癒率を示した。また、FMTにより腸管常在菌叢の多様性が回復することも示された。感染症などの有害事象や、投与方法などの改良が課題。

 

Immunization

・トキソイドを用いた臨床試験が行われ、終了したが結果はまだpublishされていない。

(ClinicalTrials.gov numbers, NCT01887912 and NCT02117570)