とある内科医の医学勉強帳

感染症医、総合内科医の忘備録

(論文)Aspiration Pneumonia 誤嚥性肺炎 (Review) N Engl J Med 2019; 380: 651-663

NEJMのReviewで誤嚥性肺炎が取りあげられました。

ありふれた疾患で、普段勉強をし直すことも少ない疾患なので、全文しっかり読み込みました。

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印象的だったのは、起炎菌に関する知見の変化で、これまで誤嚥性肺炎といえば、「口腔内の常在菌、特に嫌気性菌」というイメージで、「誤嚥性肺炎の治療=ABPC/SBT」という方法を取られるドクターが多いと思います。しかし、近年は嫌気性菌よりも好気性菌の比重が高くなっているようで、特に市中発症の誤嚥性肺炎の主な起炎菌は、S.pneumoniae(肺炎球菌)、S.aureus黄色ブドウ球菌)、H.influenzae(インフルエンザ桿菌)、腸内細菌科で、院内発症は緑膿菌を含むグラム陰性桿菌を考慮すべきとのことです。ルーティンの嫌気性菌カバーを疑問視する意見もあるようで、誤嚥性肺炎ならとにかくABPC/SBTという診療は見直そうと思いました。

chemical pneumonitisは時に重症な呼吸不全を伴いますが、低pHの胃内容物を大量に誤嚥しない限り容易には起きないようです。

治療に関しては、ABPC/SBTの他、クリンダマイシン(CLDM)やキノロン(LVFX、MXFX)も選択肢となります。

院内発症で重症、また耐性菌リスクの高い症例には緑膿菌やESBL産生菌の関与を考慮して、PIPC/TAZ、カルバペネム、4世代セフェムなどが選択肢となります。

また、気道などにMRSAを保菌している例ではバンコマイシン(VCM)、リネゾリド(LZD)の併用も検討します。

治療期間は原則5~7日間ですが、壊死性肺炎、膿胸、肺膿瘍など合併例はより長期の抗菌薬治療が必要で、ドレナージの適応も考慮します。

chemical pneumonitisもaspiration pneumoniaも、ルーティンのステロイド使用は推奨されません。

予防でエビデンスがあるのは、脳卒中後の誤嚥性肺炎予防としての、ACE阻害薬、クロピドグレルです。

口腔内洗浄のエビデンスはまだ未確立のようです。

 

誤嚥性肺炎は非常にありふれた疾患であり、現在の日本においては、急性期病院も慢性期病院も、臨床に関わる医師なら診ない人は少ないと思います。

ありふれているということは、診療の質を高めることで、多くの患者さんの予後、QOLを高められると思います。

この論文では取りあげられていないですが、高度認知症、ADL全介助の患者さんの誤嚥性肺炎に対する抗菌薬治療については、数ヶ月の延命効果はあるがQOLは保てないという報告もあり(Arch Intern Med 2010; 170: 1102-7)、また難しい問題です。