(論文)Aspiration Pneumonia 誤嚥性肺炎 (Review) N Engl J Med 2019; 380: 651-663
NEJMのReviewで誤嚥性肺炎が取りあげられました。
ありふれた疾患で、普段勉強をし直すことも少ない疾患なので、全文しっかり読み込みました。
印象的だったのは、起炎菌に関する知見の変化で、これまで誤嚥性肺炎といえば、「口腔内の常在菌、特に嫌気性菌」というイメージで、「誤嚥性肺炎の治療=ABPC/SBT」という方法を取られるドクターが多いと思います。しかし、近年は嫌気性菌よりも好気性菌の比重が高くなっているようで、特に市中発症の誤嚥性肺炎の主な起炎菌は、S.pneumoniae(肺炎球菌)、S.aureus(黄色ブドウ球菌)、H.influenzae(インフルエンザ桿菌)、腸内細菌科で、院内発症は緑膿菌を含むグラム陰性桿菌を考慮すべきとのことです。ルーティンの嫌気性菌カバーを疑問視する意見もあるようで、誤嚥性肺炎ならとにかくABPC/SBTという診療は見直そうと思いました。
chemical pneumonitisは時に重症な呼吸不全を伴いますが、低pHの胃内容物を大量に誤嚥しない限り容易には起きないようです。
治療に関しては、ABPC/SBTの他、クリンダマイシン(CLDM)やキノロン(LVFX、MXFX)も選択肢となります。
院内発症で重症、また耐性菌リスクの高い症例には緑膿菌やESBL産生菌の関与を考慮して、PIPC/TAZ、カルバペネム、4世代セフェムなどが選択肢となります。
また、気道などにMRSAを保菌している例ではバンコマイシン(VCM)、リネゾリド(LZD)の併用も検討します。
治療期間は原則5~7日間ですが、壊死性肺炎、膿胸、肺膿瘍など合併例はより長期の抗菌薬治療が必要で、ドレナージの適応も考慮します。
chemical pneumonitisもaspiration pneumoniaも、ルーティンのステロイド使用は推奨されません。
予防でエビデンスがあるのは、脳卒中後の誤嚥性肺炎予防としての、ACE阻害薬、クロピドグレルです。
口腔内洗浄のエビデンスはまだ未確立のようです。
誤嚥性肺炎は非常にありふれた疾患であり、現在の日本においては、急性期病院も慢性期病院も、臨床に関わる医師なら診ない人は少ないと思います。
ありふれているということは、診療の質を高めることで、多くの患者さんの予後、QOLを高められると思います。
この論文では取りあげられていないですが、高度認知症、ADL全介助の患者さんの誤嚥性肺炎に対する抗菌薬治療については、数ヶ月の延命効果はあるがQOLは保てないという報告もあり(Arch Intern Med 2010; 170: 1102-7)、また難しい問題です。
PFAPA症候群~繰り返す発熱、咽頭扁桃炎~
概要
PFAPA症候群:Periodic fever with aphthous stomatitis, pharyngitis, and adenitis syndrome
発熱、アフタ性口内炎、咽頭炎、頸部リンパ節炎を主徴とし、典型的には5歳までに発症する周期性発熱疾患の1つ
周期性発熱症候群の中で最多とされるが、詳しい疫学は不明
発症は3~4歳が多く、やや男に多い(55-71%)
多くの例は10歳までに寛解するが、一部成人まで持ち越す例もある
成長や精神運動発達は正常である
成人発症例も近年報告が増加している
小児、成人ともに、発熱に加え、咽頭炎や頸部リンパ節腫脹などを繰り返す症例の鑑別診断の1つとなる。
症状
主症状:周期性の発熱、アフタ性口内炎、頸部リンパ節炎、咽頭炎
その他、関節痛、頭痛、嘔吐、上気道炎症状、腹痛など
3~6日間程度持続する発熱を、3~8週間毎に繰り返す
発作間欠期は無症状である
病因
不明
自然免疫系に関わるサイトカインの調節異常が示唆されている
原因遺伝子の同定はされておらず、非遺伝性と考えられているが、家族性発症の報告もある
検査
特異的な検査所見はない
CRP、SAA(血清アミロイドA)、好中球、IL-6などが上昇する
診断
以下の診断基準があるが、小児が対象である(J Pediatr 1999;135:15-21)
1)規則的に反復する発熱が5歳以前に出現
2)上気道炎症状がなく、以下のうち少なくとも一つの臨床所見を伴う
a)アフタ性口内炎
b)頸部リンパ節炎
c)咽頭炎
3)周期性好中球減少症を除外する
4)エピソードの間欠期には完全に無症状である
5)正常な成長,精神運動発達
成人を含めたPFAPA症候群の診断フローチャートがある
(自己炎症性疾患診療ガイドライン2017 日本小児リウマチ学会より)
治療
・発作予防:シメチジンなどのヒスタミンH2ブロッカー(30~70%で症状の消失や軽減)、コルヒチン
機序は、T細胞上のH2受容体拮抗作用によるサプレッサーT細胞の抑制、NK細胞の活性化、あるいはマクロファージや単球からのIL-12放出を促進し、IL-2やIFN-γの産生を増強するなどの免疫調節作用が示唆(Pediatr Infect Dis J 1992; 11: 318-321)
・症状緩和:副腎皮質ステロイド、多くはPSL 0.5~1mg/kg/回、1-2回の内服で症状が改善
ステロイドを使用した19~50%の患者で、発作の間欠期間が短くなる欠点が報告されている
・扁桃摘出術
・その他、有効と報告があるもの
ロイコトリエン拮抗薬、抗IL-1製剤、漢方薬(抑肝散、柴胡桂枝湯)
予後
良好
数年から10年程度で自然に寛解するとされる
UpToDateには、「Given the favorable natural history, treatment of any kind is optional.」とある
参考文献
UpToDate Periodic fever with aphthous stomatitis, pharyngitis, and adenitis (PFAPA syndrome) Literature review current through: Feb 2019. | This topic last updated: May 01, 2018.
自己炎症性疾患診療ガイドライン2017 日本小児リウマチ学会 診断と治療社
PFAPA(pediodic fever, aphthous stomatitis, pharyngitis and adenitis)症候群22例の臨床症状および治療に関する検討 田中理砂ら 小児感染免疫 2012; 24: 155-161
MERS: clinically mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion 可逆性の脳梁膨大部病変を伴う軽症脳炎/脳症
感染症、電解質異常、血管炎などの膠原病の経過中に、意識障害を呈し、脳MRIで脳梁膨大部に限局した病変を認めることがあります。
その際は、「MERS: clinically mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion:可逆性の脳梁膨大部病変を伴う軽症脳炎/脳症」の可能性を考えます。
原因
・感染(各種ウイルス、マイコプラズマ、レジオネラ、サルモネラ、O-157大腸菌など)
・薬剤
・腎不全
・血管炎
・外傷
・痙攣
など
特徴
①軽度の意識障害
②発症から1ヶ月以内に後遺症なく改善する脳炎・脳症
③可逆性脳梁膨大部病変(3日~8週で改善)
画像検査
MRI所見:T2WIおよびDWIで脳梁膨大部中間層に円形もしくは卵円形の高信号域、T1WIで低~等信号、ADC低下
発症機序
詳しいメカニズムは不明
IL-6などの炎症サイトカイン、低ナトリウム血症などとの関連が推測
MRI所見からは、軸索内浮腫や炎症細胞浸潤が疑われている
参考文献
Clinically mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion. Neurology 2004; 63: 1854-1858.
MERS: clinically mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesionの1成人例 日内会誌 2013; 102: 3223-3226
可逆性の脳梁膨大部病変を伴う軽症脳炎/脳症(clinically mild encephalitis / encephalopathy with a reversible splenial lesion ; MERS)沖縄医報 2010; 46: 56-57
可逆性脳梁膨大部病変に伴う失調症状にステロイド投与が奏効したレジオネラ肺炎の1例 日本呼吸器学会雑誌 2011; 49: 651-657
可逆性脳梁膨大部白質脳症を呈したEBウイルス関連血球貪食症候群の1例 大高行博ら 日内会誌 2013; 102: 1804-6
恥骨結合炎と化膿性恥骨骨髄炎
内科学会雑誌の「今月の症例」で、化膿性恥骨骨髄炎がありました。
(ラグビー選手に発症した化膿性恥骨骨髄炎の1例 日内会誌 2018; 107: 2518-2523)
そこから学んだことは、
「若年運動選手の発熱を伴った鼠径部痛、恥骨部痛は、化膿性恥骨骨髄炎を疑う!」
化膿性恥骨骨髄炎 Osteomyelitis pubis
細菌感染による骨髄炎
リスク因子
・アスリート(サッカー、ラグビー、ランニング、など)
・泌尿器科手術
・骨盤内悪性腫瘍
※別診断として、「恥骨結合炎」がある
恥骨結合、股関節、軟骨に機械的な炎症が生じ、鼠径部痛を呈するもの
恥骨結合に付着している、腹直筋、内転筋等の機械的ストレスが原因とされる
症状は恥骨結合、鼠径部周辺の不快感、疼痛で、走ったり、ボールを蹴ったり、身体をねじったりした時などに増悪する
アスリート、特に男性サッカー選手に多くみられ、基本的に安静、冷却、消炎鎮痛剤などの保存的加療により軽快する
競技までの復帰には3.8~13週間(平均9.6週)を要していた
化膿性恥骨骨髄炎の主な起炎菌
・Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)
・Streptococcus pygenes(A群溶連菌)
・Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)
・Escherichia coli(大腸菌)
・Salmonella species(サルモネラ菌群)
・嫌気性菌
診断
血液培養、MRI、CT
治療・予後
脊椎炎、骨髄炎に準じて最低6週間以上の抗菌薬治療
5ヶ月後に膿瘍形成を伴い再発して、デブリドマンを要した例もある
参考文献
ラグビー選手に発症した化膿性恥骨骨髄炎の1例 日内会誌 2018; 107: 2518-2523
Treatment of osteitis pubis and osteomyelitis of the pubic symphysis in athletes: a systematic review. Br J Sports Med 2011; 45: 57-64.
(全文PDF:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3719975/pdf/nihms475695.pdf)
(論文)C.difficile感染症 (Review Article) Clostridium difficile Infection. N Engl J Med 2015; 372: 1539-48
- Pathogenesis and Epidemiology
- Risk Factors
- Diagnosis
- Prevention
- Treatent of Acute Infection
- Treatment of Recurrent Infection
- Immunization
・米国では2011年の1年間で453000件のC.difficile感染症(CDI)が発生し、29000名が死亡。これらのうち1/4が市中発症と考えられる。
Pathogenesis and Epidemiology
・C.difficileは大腸に定着し、2つのトキシンを産生(TcdA、TcdB)、感受性のある個体に腸炎を起こす。
・通常は腸管のmicrobiotaにより、菌の定着に抵抗性であるが、抗菌薬使用によりこの抵抗性が低下することにC.difficileの定着が起こる。定着した例皆が発症するわけではない。
・幼児の多くがC.difficileを保菌しているが無症状。おそらく、CDトキシンが結合する受容体が幼児の腸管には発現していないため。この保菌により免疫反応が起こり、ヒトはC.difficileのトキシンに対するIgG抗体を保有するようになる。
・CDトキシンはRho GTPasesを不活性化により、大腸細胞の壊死、腸管バリア機能喪失、好中球性の腸炎を起こす。
・アメリカではBI/NAP1/027という強毒株が問題。高いキノロン耐性率、効率的な芽胞形成、大量の毒素産生などにより一般の株より高い死亡率。
・抗菌薬を投与された入院患者で、抗トキシン-IgGの抗体価が高い例は、C.difficileが定着しても、無症候性保菌者となることがある(N Engl J Med 2000; 342: 390-7)。
菌自体はヒトに非侵襲的であり、腸管外の感染症は非常に稀。
・入院患者におけるCDI発生率は上昇傾向、近年のデータでは
・15 cases per 1000 hospital discharge
・20 cases per 100,000 person-years in the community
Risk Factors
・最も重要な因子は抗菌薬使用。ほぼ全ての抗菌薬がCDIと関連するが、多いのはABPC、AMPC、セファロスポリン、CLDM、キノロン。
・年齢が上がるに従い、CDIのリスクと重症度も上がる。
・CDIの多くは病院内発症であるが、近年市中発症のCDIが劇的に増加しており全体の約1/3を占めている。
・市中発症のCDIは、院内発症例に比べ若年者に多く、既知のCDIのリスク因子が明らかでない例が多い。死亡率も低いが、40%で入院を要し、再発率も院内発症例と変わりない。
・酸分泌抑制治療がCDIリスクとの報告があるが、CDの芽胞は酸に対しても安定であり、胃酸のpHに左右されないと思われる。CDI増加は酸分泌抑制そのものによるものではなく、交絡因子によるものとの報告も複数あり。
・その他のリスク因子
加齢、IBD、臓器移植、化学療法、CKD、免疫不全、幼児保菌者やCDI発症者との接触
・感染に関連した死亡率は5%、その他全ての死亡率は15-20%。
・重症CDI:WBC≧15000/μL、低アルブミン血症、AKIなどで判断され、緊急結腸切除や死亡との関連あり。
Diagnosis
・酵素免疫法によるトキシンの同定か、遺伝子検査により診断されることが多い。
・C.difficileの直接培養は、嫌気培養が必要であり一般的ではない。
・遺伝子検査は、トキシン検査よりも感度・特異度に優れるが、臨床的意義が不明な少量の毒素産生C.difficileを検出してしまう恐れもある。
・遺伝子検査でトキシン産生株を検出しても、便中には遊離トキシンがない例は臨床予後に影響しないとされる。
・将来的には、高感度のトキシン定量検査を用いた診断アルゴリズムが期待される。
・遺伝子検査の陰性適中率(negative predictive value)は、平均的なリスクがある集団では95%以上となるため、遺伝子検査陰性の場合は(下痢の原因として)他を評価する必要がある。
・そもそも入院患者ではC.difficileが定着することがあるため、下痢がない患者での便検査をするべきではない。同様にCDI治療後の除菌確認のための便検査も意味がない。症状改善後も数週から数ヶ月にわたり検査では陽性となることがある。
・治療後も下痢が続く場合、CDI再燃か、感染後の過敏性腸症候群か炎症性腸疾患かの鑑別に便検査が有用となる可能性がある。
Prevention
・現在有効なワクチンはなく、予防の手段は、感染管理、抗菌薬適正使用、プロバイオティクスの3つ。
・抗菌薬使用を減らすことでCDIが減る。
・C.difficileは医療機関内に普遍的に存在し、芽胞は、医療従事者の手、聴診器、ベッド、電話、浴室、ベッドサイドなどあらゆるところから検出される。
・芽胞はアルコール消毒では減らず、石鹸と流水を用いた手洗いにより減る。
・CDIの患者は個室隔離とし、医療従事者は手袋、ガウンを身に着け、石鹸と流水で手洗いし、患者退室後は部屋を除菌する。
・プロバイオティクスは安全で簡便な戦略。有用性については否定するものと肯定するものの報告が混在しており、はっきりしておらず、ルーチンの使用については推奨されない。
Treatent of Acute Infection
・MNZとVCMがこれまでの治療の中心であったが、BI/NAP1/027株にはMNZの成績が劣ること、軽症・中等症・重症のいずれもMNZよりVCMの治療効果が優れるとの報告、MNZによる副作用の問題、VCMの後発品登場によるコスト低下などから、VCMが治療の主流となっている。
・2011年にFDAにより承認されたフィダキソマイシン(Fidaxomicin:FDX)は、大環状、殺菌性、特定の嫌気性グラム陽性球菌に活性あり。
・Phase3試験ではFDXの効果はVCMと同等(約90%)、再発率はVCMより低い(15% vs 25%)との結果。BI/NAP1/027株(約38%)における再発率低下はFDXでも認めなかった。FDXはコスト高が問題。
Treatment of Recurrent Infection
・再発リスク:初回後は20%、数度の再発後の再発リスクは60%にも及ぶ。
・再発の主な原因は、C.difficileへの再暴露、芽胞の再活性化であり、腸管常在細菌叢によるバリア機能が損なわれ、感染への免疫反応が障害された例で起こる。
・治療:初回再発の50%ではMNZ、VCMの10-14日間の再経口投与で改善する。
・2回目以降の再燃:難治。VCMの漸減投与や間欠投与、FDXにより治療。
・抗菌薬耐性による問題より、宿主の腸管の状態やトキシンに対する免疫反応の問題の方が大きい。FDXが再発例の治療に有用である可能性がある。
・中毒性巨大結腸、腹膜炎、呼吸不全、血行動態の不安定化などを伴った重症例に対しては、大腸切除や回腸瘻増設について外科コンサルト。
・FMT:facal microbial transplantation 糞便移植
元々ヒトの腸管常在菌叢は、外来からの病原細菌の定着を防ぐ働きがある。しかし、経口的に抗菌薬を投与されると、腸管常在菌叢の多様性が急速に損なわれ、その状態は数ヶ月間にわたり続く。
・C.difficileを腸管から排除するのに最も最良な方法は、抗菌薬を中止し、腸管常在菌叢を自然に回復させること。しかし、回復にはおよそ12週間またはそれ以上かかり、その間に再発する可能性あり。
・FMTはVCMによる治療と比べ優位に高い治癒率を示した。また、FMTにより腸管常在菌叢の多様性が回復することも示された。感染症などの有害事象や、投与方法などの改良が課題。
Immunization
・トキソイドを用いた臨床試験が行われ、終了したが結果はまだpublishされていない。
(ClinicalTrials.gov numbers, NCT01887912 and NCT02117570)
アシクロビル脳症
ポイント:
「帯状疱疹、ヘルペスウイルス感染症治療中に生じた意識障害、精神神経症状を見た場合は、ウイルス性脳炎とアシクロビル脳症の鑑別を!」
アシクロビル脳症とは?
抗へルペス薬のアシクロビルは中枢神経系への移行が良好であり、その脳脊髄液中濃度は血中濃度の約50%と高い。主に腎臓で排泄されるため、腎機能障害者では排泄が遅延し、まれに精神神経症状をきたす。
腎機能正常者における報告もあり、高齢者、脱水合併時には注意が必要。
尚、近年抗へルペス薬の主流であるバラシクロビルは、肝臓で代謝されアシクロビルとなるので、同じく脳症の原因薬剤となる。
症状:意識障害、興奮・錯乱、振戦、傾眠、幻覚、ミオクローヌス、異常行動、構音障害、歩行障害など
特に、ウイルス性脳炎の鑑別が必要であり、髄液検査を考慮する
治療・予後:多くは薬剤投与中止により24時間以内に改善するとされるが、重症例では昏睡に至り、死亡することもある
※アシクロビルは腹膜透析では除去されない。血液透析では除去される。
参考資料
腎機能正常者の帯状疱疹治療中にみられたアシクロビル脳症の1例 臨床皮膚科 2013; 67: 265-268
高齢者におけるアシクロビル脳症の1例 日臨救急医会誌 2017; 20: 763-8 (pdf→https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsem/20/6/20_763/_pdf/-char/ja)
髄膜炎を疑う身体所見(髄膜刺激徴候)
・項部硬直
・Kernig徴候(ケルニッヒ)
・Brudzinski徴候(ブルジンスキー)
上記はいずれも、刺激状態にあるくも膜下腔を貫通している脊髄神経を伸展させる動きへの自然発生的な拒否反応である。髄膜炎の他、クモ膜下出血でもみられる。
項部硬直
項部硬直とは、「頸部の屈曲に対する不随意的な抵抗」であり、患者の首を屈曲させ、顎を胸にくっつけるようにする時に感知される。
急性細菌性髄膜炎に対する感度は57~92%とされる(発熱の感度は66~100%)。
Kernig徴候
あらかじめ患者の股関節と膝を屈曲させておき、その膝を伸展させた場合に抵抗があれば陽性ととる。
Brudzinski徴候
患者を仰臥位にして首を屈曲させる(顎と胸をくっつける)と、患者の股関節と膝の両者が屈曲する現象。
※項部硬直と項部固縮
項部硬直:neck stiffness
前後方向に硬い(頷く動作)
項部固縮:neck rigidity
左右方向に硬い(横を向く動作)
代表的疾患:頚椎偽痛風(Crowned dens syndrome)、パーキンソン病
参考資料
マクギーの身体診断学 第2版 診断と治療社
Dr.ウィリス ベッドサイド診断 病歴と身体診察でここまでわかる! 医学書院
Lemierre症候群
目次
重要点:「若年者、咽頭炎のエピソード、肺のseptic emboli」という場面では、Lemierre症候群を疑う!
概要
Lemierre症候群(Lemierre’s syndrome)とは、咽頭、扁桃など口腔内の感染症から頸静脈の化膿性血栓性静脈炎を合併し,主に肺などの遠隔臓器に播種性感染巣を引き起こす感染症。
Lemierre's Syndrome (IMAGES IN CLINICAL MEDICINE) N Engl J Med 2004; 350: e14
肺の敗血症性塞栓(septic emboli)の合併が有名だが、中枢神経、肝・脾、関節、骨髄、皮膚軟部組織などにも2次感染巣を起こしうる
20歳前後の免疫能が正常の若年者に多く発症する
機序
中咽頭の感染が傍咽頭間隙に波及し、さらに頸動脈鞘への進展、内頸静脈の化膿性血栓性静脈炎を発症することによって敗血症性塞栓を来たす
起炎菌
主な起炎菌はFusobacterium necrophorum(約80%)
その他、Fusobacterium nucleatum、Prophyromonas asaccharolytica.、Prevotella、Bacteroides、Peptostreptococcus、Proteus、Staphylococcus aureus、Streptococcus spp.(S.milleri、S.intermedius、S.constellatus)など様々な菌の報告あり
頸部の解剖および炎症波及の様子(N Engl J Med 2014; 371: 2018-2027より)
Lemierre症候群の症例の頸部画像所見(日内会誌 2016; 105: 99-104より)
合併症
肺のseptic emboliの他、嚥下障害、発声障害、同側の声帯麻痺、下位脳神経麻痺、遠隔部位への播種性病変(脳、腎、関節など)、蓄膿症など
治療
3~6週間の抗菌薬治療
内頸静脈の血栓に対しては保存的治療
(抗凝固療法が行われることが多いが、効果は不明)
予後
免疫正常の若年者に多く発症するが、死亡率は約5%と決して低くない。
また、一旦閉塞した内頸静脈は血流が回復しない例もある。
重要点:「若年者、咽頭炎のエピソード、肺のseptic emboli」という場面では、Lemierre症候群を疑う!
参考文献
Lemierre's Syndrome (IMAGES IN CLINICAL MEDICINE) N Engl J Med 2004; 350: e14 (PDF→https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/ENEJMicm030003)
Case 36-2014. N Engl J Med 2014; 371: 2018-2027
壊死性筋膜炎,敗血症性肺塞栓症を合併したLemierre症候群の1例
(日内会誌 2016; 105: 99-104)(PDF→https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/1/105_99/_pdf/-char/ja)
敗血症性肺塞栓症を伴った Lemierre 症候群の1例
(感染症誌 2014; 88: 695-699)
(PDF→http://journal.kansensho.or.jp/Disp?pdf=0880050695.pdf)
Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases Eighth Edition ELSEVIER
G群溶連菌~特にStreptococcus dysgalactiae subsp. equsimilisについて
ヒトに感染を起こすG群溶連菌は以下の3種
・Streptococcus dysgalactiae subsp. equsimilis
・Streptococcus anginosus group
・Streptococcus canis
(C、G群とされた90%はS.dysgalactiae subsp. equsimilis、残りはS.anginosus group)
Streptococcus dysgalactiae subsp. equsimilis (SDSE)
概要
最も頻度の高いG群溶連菌感染症
LancefieldのA、C、Gのいずれかに凝集する
悪性腫瘍、糖尿病、心疾患など基礎疾患がある高齢者で、皮膚・軟部組織感染症の他、菌血症、感染性心内膜炎、関節炎、骨髄炎などの原因となる
S.pyogenesと共通の病原因子を有し、壊死性筋膜炎、Streptococcal toxic shock syndromeなど同様の病態を形成する
病原因子として、M蛋白(白血球の食作用から逃れたり、組織侵入に関連)、Streptokinase(フィブリンを分解し、凝固系を阻害)、Hyaluronidase(組織間隙のヒアルロン酸を分解)、Streptolysin O(膜障害作用)、Streptolysin S(組織壊死)などがある
疫学
S.dysgalactiae subsp. equsimilisは本邦の壊死性筋膜炎の原因菌の3.6%を占める
(Clin Microbiol Infect 2010; 16: 1097-1103)
S.pyogenesによる壊死性筋膜炎に比べ、基礎疾患を有する例が多く(80~90%前後)、死亡率も高いとの報告がある(11% vs 28%)
治療
ペニシリンが第一選択
Clindamycin (CLDM)を併用する(理由は以下)
・蛋白合成抑制作用により、菌の毒素産生を抑える
・膿瘍移行性、組織移行性に優れる
・すべての分裂段階の菌に抗菌効果があり、抗菌力は菌の量に影響されない
・Post-antibiotic effect(PAE)が強い
参考文献
C群およびG群溶血性レンサ球菌による侵襲性感染症についてのアンケート調査(生方 公子ら、感染症誌 2006; 80: 480-487)
G群溶血性連鎖球菌菌血症104症例の臨床的特徴および市中発症群と院内発症群の臨床的特徴の比較(三好 和康ら、感染症誌 2017; 91: 553-557)
G群溶血性レンサ球菌による壊死性筋膜炎の1例(辻 英輝ら、日本救急医学会雑誌 2012; 23: 30-35)
髄膜炎尿閉症候群(MRS:meningitis-retention syndrome)
通常4~10日間程度で後遺症なく自然軽快するが、時に5~7週間ほど遷延することもある
原則特別な治療は必要ない
機序は、原因疾患による仙髄神経根障害、一過性の括約筋障害が疑われている
・感染症(HSV、VZV、EBV、West Nile virus、肺炎球菌)
・漢方薬
・原田病(Vogt-Koyanagi-Harada disease)
特に、「性器ヘルペス+尿閉」の場合、Elsberg症候群と呼ばれるが、Elsberg症候群は髄膜炎ではなく、ヘルペスウイルスによる脊髄神経根炎が尿閉の原因であり、厳密には髄膜炎尿閉症候群とは異なる。
参考文献
尿閉で発症した無菌性髄膜炎,meningitis-retention syndromeの1例
日内会誌 2017; 106: 107-113 (pdf→https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/106/1/106_107/_pdf/-char/ja)
Herbal Medicine-induced Meningitis-retention Syndrome
Intern Med 2010; 49: 1813-1816
(pdf→https://www.jstage.jst.go.jp/article/internalmedicine/49/16/49_16_1813/_pdf/-char/ja)
Meningitis-Retention Syndrome (Case Report)
Int Neurourol J 2015; 19: 207-209 (pdf→https://pdfs.semanticscholar.org/da11/60b0c438cad417e7436fb1b64d7b6d37b6ee.pdf)